ISHII SPORTS MAGAZINE  SPECIAL INTERVIEW|仲川希良
山道を歩く仲川希良さん
Behind the article | THE EARTH vol.50 巻頭記事
「ゆるり寄り道ハイク」

Special Interview

仲川希良流「歩くこと、旅すること」

低山ハイキングと「山旅」の魅力

スワイプしてめくる

THE EARTH vol.50 誌面

フィールドナビゲーターとして活躍する仲川希良さん。石井スポーツが発行するTHE EARTHでは何度も誌面に登場していただき、山の魅力を伝えるお手伝いをしてもらっています。今回のvol.50では、巻頭のハイキング企画に協力いただき、石井スポーツスタッフ2名とともに、神奈川県の逗子葉山エリアにある仙元山・ソッカ山を訪れました。その模様は誌面に譲るとして、ここでは、今回のハイキングを通して感じた、里山・低山ハイキングの魅力について改めてお聞きします。なお、一般的には、標高1,200m以下で日帰り登山できる山を低山とされていますが、ここでは、誌面の企画に沿って、もう少し標高が低く、村や町に近い山を想定して話を進めていきます。

──今日はお時間をいただきありがとうございます! THE EARTHの中では、何度も登場していただき、初めての雪山テント泊についても記事にさせていただきましたが、登山歴としてはどのくらいになりましたか?

「2010年の夏から登り始めたので、16年になります」

──その中で、今回のTHE EARTH vol.50「ゆるり寄り道ハイク」のような低山ハイキングはどのくらいやってきたでしょうか。

「出産前までは、自分でも『知らない世界を見たい!』という気持ちが強くて、仕事でもハードな山に行くことが多かったんです。でも、出産やコロナ禍が重なって、遠くの険しい山へ行くのが物理的に難しくなって。その時期に改めて身近な自然に触れ直す時間が始まってから、近場の山を歩くスタイルが圧倒的に増えました」

低山を歩く様子

低山ならではの「余裕」が好き。山と麓をセットで味わうのが私流。

01CHAPTER

麓の町とのつながりを楽しむ

──高い山を経験してきた仲川さんにとって、今回のような低山ハイクだと物足りなく感じることはありませんか?

「全然そんなことないですよ! むしろ、低い場所ならではの『余裕』が大好きです」

──余裕?

「そうです、余裕。余裕があるからこそ、自分の興味がわいたことに時間をかけることができる。もともと、自分が山のどの部分に楽しみを感じているかと考えた時に、必ず麓でどこかに立ち寄る『最後のご褒美』的なところや、登る前にも麓で散策してその土地の恵みを持って山に上がる、といった『山と麓をつなげて味わう』スタイルが好きだったこともあると思います。『この山があるからこそ、この温泉があるんだな』『この美味しいものがあるんだな』ということを、麓で改めて山を感じながら散策するのが好きだったので。元々『つないで歩くこと』への興味は強かったほうだと思います」

──なるほど。山とその土地とのつながりというか、そのフィールド全体を見ている。いいですね。

「2冊目の本のタイトルも、あえて『登山』ではなく『山旅』という表現にしました。移動中も含めて、そこにつながるすべてを味わいたいという気持ちを込めています」

里山の自然を観察する様子

02CHAPTER

低山での時間の使い方と発見

──時間的な余裕があることによって、仲川さんらしい楽しみ方がありそうですね。

「まず、低山はコースタイムが圧倒的に伸びますよね(笑)。じっくり木と向き合ったり、見つけた花の写真を心ゆくまで撮り続けたりしがちです。先日も、里山に行った時に鳥の観察をしていたら、まだ数十メートルしか登っていないのに40分も経っていたりして。『しばらく鳥禁止!』って自分に言い聞かせたくらい(笑)」

──なかなかすごい集中力ですね(笑)。

「このエピソードは極端だとしても、そんなふうに、山と深く向き合う、というのがひとつ挙げられます」

──今回、THE EARTHの取材で行った神奈川県逗子葉山エリアのソッカ山・仙元山では、ミラーレス一眼カメラを使ってもらいました。普段、スマートフォンで写真を撮ることが多いと思いますが、いかがだったでしょうか?

「私は普段、雪山などでスマホの電源が落ちるのが嫌なのでコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)を持っていく程度で、『写真を撮るために』という感覚は希薄な方でした。今回良いカメラを持って何を撮るか考えるのは、特別な体験でした」

──カメラを構えると、記録より「何かを撮る」という目的意識に変わる気がしますよね。

「スマホだと勝手に綺麗に調整してくれちゃうので、『撮れた』気になって深く追うことができないんです。カメラだと『オートだとちょっと違うな、どうしたいんだろう』となった時に、自分が何に感動したのかを言語化しないと機能を使えない。例えば、木漏れ日が当たっている葉っぱを撮ろうとした時に、『この光が撮りたかったのに目立たないな、じゃあ露出を下げてみよう』とか。自分が何に感動したのかに自覚的になれるのが、カメラを持って歩く良さだと思います」

*今回用意したカメラはOM SYSTEMの『OM-5 Mark Ⅱ』。防塵、防滴、耐低温の性能を備えた軽量でコンパクトなカメラです。そのフィールドレポートはTHE EARTH vol.50のP.108-109「フォトハイクのススメ」に掲載。そちらもぜひご一読を。

山道を歩く後ろ姿

歩くスピードが私にはしっくりくる。点と点の移動ではなくその間の線が立体的になって日本を3Dで楽しめる。

— KIRA NAKAGAWA

03CHAPTER

「歩く」ことで日本を
立体的に体験する

──いまおっしゃった『カメラを持って歩く良さ』の『歩く』というのが、昨年と今年のTHE EARTHのテーマにもなっています。仲川さんにとって『歩く』ということについて、何か意味を持ったりしますか?

「車や自転車、走ったりと、いろいろな移動スピードがありますが、私は歩くスピードが一番好きなんです。移動した場所の大きさ、起伏、距離感などを体感できるのは歩くスピードだと思います。山を歩くようになって本当に良かったと思うのは、地図を見た時に自分が歩いた場所がどんどん増えていくことです」

──そうなんですね。

「日本の7割は山ですが、地図の上で自分が『体感した場所』がどんどん増えていく。車やバスだと『点』の記憶になりがちですが、自分の足で歩くと『ここはこれくらいの傾斜で、これくらい時間がかかる』という記憶が体に刻まれます。日本が自分の中で『立体的な3D地図』になっていく感覚。それがすごく嬉しいんです」

──先ほどおっしゃった「登山」ではなく「山旅」と表現しているということが、よりわかってきました。

「メインの目的地が山頂であっても、そのスポットだけを目指すのではなく、そこにつながっているものすべてを味わいたいという気持ちが強いので『山旅』という言い方にしました。旅というと移動中もすべて味わうべき対象というイメージになりますから」

──山旅という表現、良いですよね。山を登るだけでなく、その麓の町、そのエリアも含めてひとつのフィールドとして見ている仲川さんだからこそ、登山というよりは旅という表現がしっくりくる。山との関わり方は人それぞれですが、低山が面白い、と思っている人は、そういう山との関わり方、旅の要素などに魅力を感じているんでしょうね。

「そうかもしれませんね。みなさんが同じではないとは思いますが、共感してもらえたらうれしいです」

笑顔の仲川希良さん

登山というよりも「山旅」。私流の山旅をこれからも楽しんでいきたい

──低山ハイクは、山から麓の町までの情報をチェックし、準備を万全にしつつも、構えすぎず頑張りすぎない。そんなフレーズが頭に浮かびました。山を歩くこと、麓の町を散策することをリラックスして楽しむ。そんなふうに山との関わり方をしていけると、山歩きを季節を問わず、もっと楽しめることにつながりそうです。

「山というか自然と関わるきっかけはいろいろとあっていいですよね。それが美味しい食べ物でも、登山に関する道具やウェアからでもいい。以前、同級生のお子さんが林間学校で『真夏だけど長袖・長ズボンを履け』と言われて困っていた時に、アウトドア用の速乾・防虫素材のものなどを勧めたらすごく喜ばれました。アウトドア用の肌着の良さも伝えたいですね。例えばメリノウールの肌着。私が愛用しているアイスブレーカーは10年以上着ていても全然ヨレないし、毛玉もできない。男性なら、ワイシャツの下に着るだけでも快適さが変わってくると思います。機能性がもたらしてくれる心身の軽やかさをきっかけに、山旅にも興味をもってもらえたら嬉しいですよね」

──今回のような「リラックスして山を楽しむ」という視点を広げていくことが、新しく登山、山旅を楽しむ人が増えるきっかけにもなりそうです。今日はすてきなお話をありがとうございました。

Profile

仲川希良さん

仲川希良NAKAGAWA KIRA

ファッションモデル/フィールドナビゲーター

アウトドア雑誌のファッションページへの出演をきっかけに登山をスタート。里山から雪山までさまざまなフィールドにでかけ、山の魅力、自然の魅力を、イベントや書籍、SNSで発信している。

BOOKS
『山でお泊まり手帳』(2018年)
『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』(2020年)
PHOTO
撮影:仲川希良
フィールド撮影:加戸昭太郎
ポートレート撮影:板橋太郎
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