

解説=野々村賢一郎(石井スポーツ神戸三ノ宮店)
わずか数年前まで「高性能なスキーブーツは重い」というのは、スキー界の常識でした。速く、鋭く滑るために欠かせない「確かなパワー伝達性」をブーツに与えるには、シェルを厚くせざるを得ず、それにともなって重量も重くならざるを得なかったのです。
しかし、その常識はいま確実に変化し始めています。かつての常識では考えることもできなかった「高性能で軽いスキーブーツ」が、レーシングモデルを筆頭にさまざまなジャンルに向けて打ち出されています。
ここでは石井スポーツが注目する「軽量・高性能スキーブーツ」が、どんなテクノロジーで軽さと高性能を両立させているのかを紐解き、各スキーブーツがどんな個性を持った一足なのかを明らかにしていきます。
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しっかり滑れる機能と軽さ、ミディアムフィットの融合
昨シーズン、圧倒的な軽さとタイトなフィット感、そして確実なパワー伝達性を持ち合わせた「HAWX ULTRA(ホークスウルトラ)」ブーツを発表。世界中で大きな注目を集めました。2018/19シーズンは、ホークスウルトラの兄弟シリーズともいえる「HAWX PRIME(ホークスプライム)」ブーツを一新。最大の注目点は、ホークスウルトラと同じように驚異的な軽さと高い性能との融合です。ここではアトミックが自信を持って打ち出したホークスプライムブーツが、いったいどのようにして軽さと高性能の両立を実現しているのか、いったいどんな特徴を持ったブーツなのかを明らかにしていきます。
キーエリアを補強して剛性を保ち、軽さを実現するPROLITE
──従来のスタンダードなブーツ構造や素材をカットした軽量化ではなく「PROLITE」は全く逆のアプローチを採用──
カタログにこう謳われているように、アトミックのニューブーツ、ホークスプライムの軽量化と高性能の両立の鍵は「PROLITE(プロライト)」にあります。スキーブーツが果たす重要な役割のひとつは、スキーヤーが発揮した力を確実にスキーに伝えることですが、その役割を果たすために必要な場所は、ブーツ背面、ヒンジ周り、ソールなどに限られます。プロライトでは、これらの場所を補強することで力の伝達性を高めています。その代表的なパーツがブーツ背面からヒンジに向かって伸びる「ENERGY BACKBONE(エナジーバックボーン」。このパーツの形状ひとつとってみても、かなり綿密に計算されてこの形状になっていることがうかがえます。また足首周りのフォルムを見てみると、かなりタイトに絞り込まれており、「最小限のシェル構造」を実現することで確かなパワー伝達性と軽量化を実現していることがわかります。
前傾角度は13〜17度まで3段階に調節可能
カエナジーバックボーンと共にブーツの背面に配されているパーツが「MAGNESIUM POWER SHIFT(マグネシウムパワーシフト)」です。使われている素材は、その名のとおりマグネシウム。超軽量なこの素材を使うことで軽量化を図りながら、力の伝達性を高める役割を果たしています。
このマグネシウムパワーシフトは、2本のビスでシェルと結合していて、プレートの向きを変えることで、ブーツの前傾角度を調節することができます。13度、15度、17度の3つに調整できるので、自分が立ちやすいポジションを見つけてください。マグネシウムパワーシフト採用モデルは、フレックス値の後に「S」がついているので、それを目印に探してください。すでにアトミックの伝統 シェル&インナーを熱成形、MEMORY FIT
パワー伝達性や軽さと並んでスキーブーツに求められる重要な性能のひとつが、快適性やフィット感の高さ。ホークスプライムでは、もはやアトミックブーツの伝統とも言える「MEMORY FIT(メモリーフィット)」を採用。足の痛みや冷えを確実に防ぎ、一日中、快適にスキーを楽しむことができるようになっています。メモリーフィットでシェルとインナーブーツの両方を加熱成型することで、足やスネへのフィット感が確実に高まるので、とくにアタリが出ていない方もメモリーフィットすることをお薦めします。
足にぴったりとフィットしたブーツを履くことで血行が悪くなるのを防ぎ、快適性を高めることができます。ホークスプライムの場合、インナーブーツの素材に保温性に優れた3MThinsulate(3Mシンサレート)を採用しているので、足はより快適な状態に保たれるはずです。
100mm幅のラストを持つホークスプライムは、しっかりと滑ることができる機能性の高さと足の快適性を両立させることができる一足。メンズモデルは130〜90の5フレックス、レディースモデルは105〜85の3フレックスが用意されているので、好みの一足を見つけてください。徹底解説!軽量&高性能ブーツ【ATOMIC】の動画
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新素材「GRAPHEN」を使うことで驚異的な軽さと高い力の伝達性を実現
2018/19シーズンに向けてヘッドが新しく打ち出したスキーブーツ、「NEXO-LYT(ネクソLYT)」シリーズを初めて持つとき、ほとんどすべての人が、その軽さに驚かされることでしょう。正確な数値は発表されていないが、ネクソLYTブーツはオンピステ向けのアルペンブーツとしては驚きを与えるほどの軽さを実現しています。その秘密はいったい何なのか?
シェルにグラフィンを採用し超軽量と高い剛性を実現
ネクソブーツの驚異的な軽さを生み出すための鍵となったのは、「GRAPHENE(グラフィン)」を採用したこと。炭 素系素材のフラフィンは、ダイヤモンド以上に炭素同士の結合が強く、平面内ではダイヤモンドよりも強いと考えられている物質。物理的にもとても強く、世界でもっとも引っ張り強度に優れた素材と考えられています。 このグラフィンをプラスチックに注入することで、シェルを大幅に薄くしながらも、スキーヤーの動きや力を確実にスキーに伝えることを実現。足首部分に足入れしやすい軟らかい素材を配置し、それ以外の部分をグラフィン注入プラスチックで構成する「SMART FRAME SHELL(スマートフレームシェル)」を採用することで、驚きの軽さと確かなパワー伝達性を持った新ブーツ、ネクソLYT シリーズが誕生しました。ロワシェル足部のリブなど、力を的確にスキーに伝えるための工夫が随所に盛り込まれており、今までのブーツとロワシェルのソールの厚さを比べた写真を見ると、ネクソブーツがいかに薄いソール(=シェル)を持ち、それが軽量化につながっていることがわかると思います。軽量化に意外なところで貢献しているのが、「SUPERLEGGERA BUCKLES(スーパーレジェッロバックル)」。イタリア語で「超軽量」を意味する名前を与えられたこのバックルは、アルミニウム90%。その素材がもたらす軽さとシンプルな形状で、滑走中のスキーヤーの足を確実にホールドし続けます。
快適性とパフォーマンスのみごとなバランス
ネクソLYT シリーズは、ヘッドのラインナップのなかではオールマウンテンに位置づけられるています。そのためシェルのボリュームも1,850ccと比較的余裕のあるSラストを採用。純レーシングモデルの「RAPTOR R2 RD(ラプターR2 RD)」のRDラストの1,500ccというボリュームと比較すると、タイトすぎず、長時間いろいろなシチュエーションでスキーを楽しむことができるキャラクターがネクソLYTブーツに与えられていることがわかります。ブーツの基本的な設計に加えて、足の快適性を高めるためにひと役買っているのが、シェルとインナーブーツを自分の足型に合わせて熱成型加工できる「FORM FIT(フォームフィット)」システムの採用。インナーブーツは、もともと足へのフィッティング性に優れた事前成型3D構造の「PERFECT FIT 3D(パーフェクトフィット3D)」が使われているので、フォームフィットすることでもうワンランク上のフィッティングの良さを手に入れることができます。
ライトウエイトは、パフォーマンスを、さらに向上させます
ヘッドのカタログには、こう記されています。今季のネクソLYT ブーツには130、120、110、100 と4つのフレックス値が用意されています。自分の体格や体重、技術レベルに合わせたフレックスを選んで、驚きの軽さが可能にするパフォーマンスの高さを、ぜひ雪上で感じてください。
※ネクソLYT ブーツではふたつのフレックスを選べる「DUO FLEX」システムを搭載。ネクソLYT 110 では、ブーツ背面のパーツの向きを変えることでフレックス 値100 と110 をチョイスできます。徹底解説!軽量&高性能ブーツ【HEAD】の動画
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98mmラストがもたらす高性能を超軽量な履き心地とともに
ノルディカのスキーブーツといえば、アルペンスキー・ワールドカップでトップレーサーたちに愛用されている 「DOBERMANN(ドーベルマン)」シリーズが有名です。世界最高峰の舞台で鍛え上げられたドーベルマンブーツの性能をしっかりと受け継ぎながら、スポーツとしてスキーを楽しむための快適性も持ったブーツ。それが「PROMACHINE (プロマシーン)」「SPEEDMACHINE(スピードマシン)」「SPORTMACHINE(スポーツマシン)」の3つからなるノルディカのマシーンシリーズです。今回注目するプロマシーンは、3つのシリーズのなかで、もっともスポーティな性能を与えられたモデル群。1,830g(26.5cm / 1/2 ペア)と、従来の基準から見ると信じられないぐらい軽いのですが、その軽さと確かな性能をどうやって両立させたのか? その秘密に迫ってみます。
軽さと高性能を生むTRI-FORCE コンストラクション
3シリーズのなかでもっともスポーティな性能を与えられたプロマシーンシリーズ。その高い性能と驚異的な軽さを両立させるために鍵となったのは、ノルディカが「TRI-FORCE(トライフォース)コンストラクション」と呼ぶテクノロジー。
これは、力の伝達に必要なブーツの背面からヒンジ周り、ソール部分には硬い素材を、足入れにかかわる足首前部には軟らかい素材を、そしてアッパーシェルの前面や甲部分など、ラッピングにかかわる部分には中間の硬さの素材を配することで、力の伝達性の高さを保ちながら軽量化を実現するテクノロジー。写真では赤い部分が硬い素材、白い部分が軟らかい素材、黒い部分が中間の素材を表わしています。赤い素材の面積をスピードマシーンやスポーツマシーンと比較してみると、明らかにプロマシーンのほうが広く、より強い力の伝達性を持つハイパフォーマンスな性能を与えられていることがわかります。このトライフォースコンストラクションを採用することで、力の伝達性を120%に高めながら、25%の軽量化が実現しているというから驚きです。ちなみに各シリーズのラスト幅は、プロマシーン=98mm、スピードマシン=100mm、スポーツマシン=102mmに設定されています。この点からもプロマシーンシリーズがもっともタイトなフィット感と鋭い応答性を持つスポーティな性能が与えられていることがわかります。フィット感と快適性に優れたNewプロマシーンライナー
トライフォースコンストラクションとともにプロマシーンブーツの大きな特徴として挙げられるのは、まったく新しく生まれ変わった「プロマシーンライナー」です。
もっとも目立つのは、足首周りにコルク素材が使われていること。ノルディカは「CUSTOM CORK FIT TECHNOROGY( カスタムコルクフィットテクノロジー)」と呼んでいますが、素材にコルクを使うことで、ライナーが足になじみやすくなり、フィット感やラッピング感が向上します。また、ライナーはもともと3D形状で設計されているので、足やスネへのフィット感が良く、スキーヤーの足元の動きを正確にスキーに伝えてくれます。スキーブーツにとって大敵の「冷え」を防ぐためには、「PRIMALOFT(プリマロフト)」と「ISOTHERM(イソサーム)」を採用。ともに保温性や吸湿性に優れた素材で、スキーヤーの足元を温かく快適に保ってくれるでしょう。グリップウォークソール採用で歩きやすさも向上
スキーブーツ選びの意外な盲点は「歩きやすさ」。滑るのには関係ないじゃん! と思う方もいるかもしれませんが、 ゲレンデや雪道はもちろん、レストハウスの床の上などで「滑りやすいか」「滑りやすくないか」は大きな違いがあります。思いがけずにツルッと足を滑らせる、そんな心配をなくすためにプロマシーンシリーズでは「GRIP WALK(グリップウォーク)」ソールを採用(一部例外あり)。非対称のトレッドパターンや水に強い特殊なトゥデザインなどを与えることで、雪の上や濡れた床などを歩きやすくしています。グリップウォークソール採用モデルは、機種目の最後に「GW」と記されているので、それを目印に選んでください。交換パーツとしてISO5355適合のアルペンソールがあらかじめセットされているので、好みに合わせて選ぶことも可能です。
軽さと高性能を併せ持ったプロマシーンブーツは、メンズ用が130、120、110の3フレックス、レディース用が115、105、95の3フレックスがラインナップされています。カタログ上はオールマウンテンブーツに位置づけられていますが、ゲレンデを中心にスキーをスポーティに楽しむことができる一足です。もちろん、1日中楽しく滑るための快 適性も充分。レーシングモデルからの乗り換えを検討してみる価値も充分にありそうです。
プロマシーン120 GWでは、ロワシェルの小指部分に「INFRARED-READY シェル」を採用。アタリが出やすいこの部分を、わずか10分(加熱6分、 吸引3分、ブーツ装着1分)でシェル加工することができ、簡単にカスタマイズできます。徹底解説!軽量&高性能ブーツ【NORDICA】の動画
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軽さと高性能を両立させたデモ入門モデル
『軽さと高い性能の融合』──それが2018/19シーズンのニューモデル・スキーブーツのトレンドです。そのなかでも特に強烈にスキーブーツの「軽量化+高性能化」を推進させたのが、サロモンです。今季のサロモンが、いったいどんなテクノロジーで軽量化と高性能の融合を実現したのか。その秘密に迫まります。
Coreframe テクノロジーが可能にした軽さと高性能の融合
2018/19シーズン、サロモンは純レーシングモデルの「S/RACE(S レース)」シリーズを大幅に軽量化。カタログ掲載モデルの最上位機種となる「S/RACE 130」で2,190g(1/2 ペア)という軽さを実現しました。純レーシングモデルである以上、レーサーたちが求める高いパワー伝達性や敏感な応答性、しっかりとしたホールド感などが具現化されているのは言うまでもありません。
S/RACEブーツでサロモンが実現化した『軽さと高い性能の融合』の鍵となったテクノロジーが、「CarbonCoreframe(カーボンコアフレーム)」テクノロジー。ロワシェルのソールからサイドにかけてカーボン素材のフレームが立ち上がる構造を採用することによって、スキーブーツの大幅な軽量化と高い性能の融合という、スキーブーツ開発において相反する要素に対する答が出ました。
ここで取り上げる「S/MAX(S マックス)」ブーツも、コアフレームテクノロジーを採用したモデルです。ただし、純レーシングに位置づけられるS/RACEとは異なり、S/MAXブーツでは「Fiberglass Coreframe(ファイバーグラスコアフレーム)」を採用。ロワシェルの補強材をカーボンからファイバーグラスに変えることで、カービングターンに必要な高い力の伝達性と、さまざまなシチュエーションに対応する適度なフレキシブルさを生み出しています。1,780gという軽さが生み出す軽快な操作感と、しっかりと雪面をとらえ続ける高い安定感は一度体感してみる価値アリです。Sense Amplifier がもたらす滑走中の動きやすさ
ファイバーグラスコアフレームと並んでS/MAXブーツの特徴として挙げられるのは「Sense Amplifier(センスア ンプリファイア)」を採用していることです。アッパーシェルの前側、スネを巻き込む部分に、通常のシェル素材よりも柔軟性のあるセンスアンプリファイアを配置。滑走中、ターン内側に向けてスネを動かすスキーヤーの動作を無理なく、自然に行なえるようになっています。
ファイバーグラスコアフレームによるロワシェルのしっかりとした支えと、センスアンプリファイアによる意思どおりに動きやすいアッパーシェルという組み合わせが、低速から高速まで、整地やコブ、新雪と幅広いシチュエーションのなかでスキーヤーが思い描いたとおりのパフォーマンスを発揮することを可能にしています。98mm ラストとCUSTOM FIT が生む快適性とホールド感
S/MAXブーツに与えられたラストは98mm幅。レーシングモデルほどではありませんが、比較的細身のタイトなフィーリングと敏感な操作感が得られるモデルになっています。そう聞くと、「長時間履いていると痛くならない?」と思う方もいることでしょう。しかし、そんな心配は無用。このS/MAXブーツも、サロモンの伝統とも言える「Custom Fit(カスタムフィット)」シェルを採用。シェルとインナーブーツの両方を簡単に熱成型加工することができるので、自分の足にぴったりと合う一足に仕上げることが可能です。
S/MAXブーツには「130 RACE」や「130 CARBON」を筆頭に130から100まで4つのフレックス、全6モデルがラインナップされています。しっかりと滑れる性能と長時間履いても疲れない軽さを併せ持つ一足を探している人はぜひお試しください。徹底解説!軽量&高性能ブーツ【SALOMON】の動画